フォトジェニックな街がある。風光明媚な景色や有名な建築物ではなく、日常のなかに、インスタ映えするようなシーンがたくさんある街。東横線「学芸大学」駅あたりもそんな場所のひとつ。センスのいい店先のショップが並んでいて、映えた写真が撮れる。若い人が多く集まるから洒落た店が多いのか、洒落た店が多いから若い人が集まるのか。いずれにしてもこの界隈は華やか、いるだけで楽しくなってくる。
駅名は「学芸大学」なのに、ここに学芸大学はない。もとはあったが、1964年に小金井市に移転している。それでも「学芸大学」の名前が残ったのは、目黒区民へのアンケートの結果だったという。そして学芸大学は駅だけでなく、このエリアの呼び名にもなっている。地名が駅名になるのが通常なのに、ここでは駅名が地名のようになっている。大学がないのに、学生街のようにカジュアルな雰囲気がするのは、学芸大学という名の影響が大きいのかも。
東京では駅前が次々に整備されている。結果、同じような顔つきになってしまった残念な例もある。そんななかで、学芸大学の駅前は個性があり面白い。チェーン店があたりまえのようにあるのではなく、自由でユニークな、いわゆる個店が軒を連ねている。
東横線の高架下には「学大市場」があり、食を通した地域とのリアルな接点の場になろうとしている。さらに、商店街も多くあり、こちらには古くから地元で愛されている店が並んでいる。今と昔がひとつになって、誰にとっても楽しめる。心躍るような日常が学芸大学にある。
学芸大学の魅力は、駅前を抜けた先にもある。そこには都内でも屈指の高級住宅街が広がっている。大きな池を擁する碑文谷公園も、安らぎと上質感にあふれている。駅前にあった時間の流れがスローダウンし、深いゆとりを味わうことができる。碑文谷、柿の木坂、そして鷹番。このあたりの地名に格式が感じられるのはなぜなのか。鷹番にはその昔、将軍家の鷹狩の場を監視する鷹場番所があったといわれている。由緒ある地名は、それなりの記憶をもっている。
暮らす場所としての落ち着きがあり、遊ぶ場所としての楽しさにあふれている。学芸大学あたりを歩いていて、そのバランスの良さが羨ましく思えた。