東京には、そっとしておきたい街がいくつかある。それは行きつけの、隠れ家的なお店のような街。とても魅力的な場所なのだが、そのことを誰にも知られたくない。知れたら多くの人が訪れるようになり、それまでそこにあった雰囲気や居心地の良さがそこなわれるような気がする。それは “気がする” だけであることはわかっている。要はそこを「自分だけのもの」にしておきたいということ。緑が丘も、そんなそっとしておきたい街のひとつ。
緑が丘の駅は東急大井町線にあり、街は目黒区に位置している。地名に“緑”がついているからには豊かな自然があるはず。そもそも緑が丘という地名は、この辺りが自然林に覆われた丘陵地帯だったことから付けられたといわれている。呑川と九品仏川緑道に向かって傾斜するこの地は、例えば立源寺から緑が丘小学校までの高低差がほぼ12mあるという。ちなみにこの傾斜は南向きで、見晴らしも陽当たりもいい、緑が丘らしい環境。明るく、ゆったりとした、スローな空気感が、この街らしさ。
緑が丘の駅前には庶民的な店が並んでいる。ほっとひと息つける、いかにもマイホームタウンといった風情。そんななか、街を散策しているといまっぽい、洒落たショップに出会うこともある。新旧がいい具合に混ざっていることも、この街の魅力のひとつとなっている。呑川緑道も、この街の癒しスポット。ここ緑が丘から世田谷の桜新町まで3kmほどつづく緑道には約300本もの桜が植えられていて、春には艶やかな色に包まれる。一方で、日常では所々に置かれたベンチに腰かけて、ゆったりとした時間を楽しむ人たちを多く見かける。のどかな小径がある街、それは愛すべき街。
ゆったりと過ごせる緑が丘は、実は自由が丘が徒歩圏内にある。いわずと知れた洗練と憧れの街へ歩いて行ける。ふだんは落ち着いて暮らし、気が向いたら流行の真っただ中へふらっと向かう。そんな生活が、緑が丘でなら実現する。「スープの冷めない距離」という言い回しがある。遠すぎず、かといって近すぎない、つくった料理が冷めないうちに届けられる、ちょうどいい距離。自由が丘の華やぎは楽しめるが、そこにある喧噪は届かない。緑が丘と自由が丘、このふたつの街は「スープの冷めない距離」にある。
探るほどに魅力が増していく緑が丘。やはりここは、自分だけの街にしておきたい。